20世紀の遺伝子工学、分子生物学等の発達によって、特許権の保護対象はますます広がりつつある。その対象はまず「人工的に作り出された」とされる微生物、やがて、ヒト遺伝子が組み込まれた哺乳類、ヒト遺伝子に広がった。そして、ゲノム解析が進む中で、米国では遺伝子の断片の解析にしか過ぎず、「機能」や「有用性」すら明確でないEST (Expressed Sequence Tags) までに特許が付与される事態が生じた。つまり、ゲノム解析の時代を経て、現代社会においては、遺伝情報が既に財産的価値を有し始めているのである。しかし、遺伝情報の解析が進む一方で、人類はそれまで経験したことのない問題にも対峙しつつある。遺伝子レベルでの差別、個々人の遺伝情報に絡むプライヴァシーの問題等、遺伝情報が解析されなければ生じない様々な問題である。本稿は、遺伝子関連発明の特許化の背景と現状を振り返りつつ、ますます財産的価値を高めつつある遺伝情報の保護をめぐって、新たに提起される問題に考察を加えるものである。Due to the rapid development of genetic engineering and molecular biology in late 20th century, patenting subjects have been expanded to human—made microbes, plants, and genetically transformed mammals. In 1980, the US Patent and Trademark Office (PTO) granted a patent on the first mammal, a genetically eng...