DNAポリメラーゼを利用した再利用可能な論理演算分子素子の提案

DNAと言えば、生物の遺伝情報を担っている分子というイメージが強いが，近年DNAの自動合成技術の進歩は目覚しく，任意の塩基配列を持つDNA分子が高精度に合成できるようになってきている．情報を塩基配列という形で分子に持つDNAは工学的に利用しやすい分子の一つである．DNAは4つの塩基A,T,C,Gをもち，それぞれがWatoson-Click相補性という選択的結合性に基いて結合をする．DNAは相補的な塩基配列が二重螺旋を形成することにより，ハイブリダイゼーション反応を起こす．ハイブリダイゼーションハイブリダイゼーション反応のような基礎反応はよく研究されており，反応速度論に基づく数理モデルにより，ある程度の精度で予測することができる．塩基配列合成技術と，その反応予測を組合せ，複雑な反応系を塩基配列レベルで設計することが可能である．また，これらの技術を元に，ナノテクノロジーの分野では，意図的なタスクを実行する分子ロボットを構築する方法が論じられている．しかし，分子ロボットとしての機能を果たすためにはセンサー，知能回路，アクチュエーターが必要になるが，それらは未だ実現はされていない．特に知能回路の分子回路は論理回路としての機能を果たさなければならない．本研究ではこの論理回路に焦点を当て，DNAを用いた組合せ回路の構成法を提案する．DNA分子を用いた論理演算素子に関する既存研究は問題点として反応速度が速くない，放出されるDNA配列の濃度が充分に得られない，演算素子が再利用できない，といった点が挙げられる．DNAにはある特定の塩基同士がハイブリダイゼーションを行う，DNAポリメラーゼによって相補的なDNA配列が伸長されるといった特徴がある．本研究ではこの2つの反応を利用して既存研究の問題点を解決し，より高速で反応し，出力を増幅して放出することが可能な論理ゲート素子を提案，構成することを目的とする．本研究では，DNA分子を用いた論理演算分子素子の構成方法を提案し，既存研究の問題点であった反応速度，放出される配列の濃度問題も解消することができた．さらに，論理回路素子が再利用不可であった点も入力配列を拡張することで，再利用可能な論理演算分子素子を構成することができた．電気通信大学201