今日ますます関心の高まっている地域貿易協定(RTA)とは、国際法上いかなる存在なのだろう か。他の二国間条約と何が異なるのだろうか。RTA の制度・構造に関する諸規定の分析は、条約体 制としての個々のRTA の性質及び実効性を評価し、今後のRTA 締結交渉において留意すべき要素 を再確認する機会を提供する。本稿は、先行研究の蓄積が少なかった論点について、方法論の整備 を試みつつ、複合的な視角からの実証分析を試行する。 まず、第I 章において、問題状況を整理する。 次に、第II 章において、RTA の制度的側面の分析方法を整理する。結果として、以下のような 知見が得られた。第1 に、分析対象及び分析視角を特定することによって、「WTO サイド」の分析 とは異なる視座からRTA のあり様を虚心坦懐に眺める「RTA サイド」からの比較分析の有効性が 示される。第2 に、比較分析の切り口としては、(1)対象とする特定の国が締結したRTA 同士の比 較、(2)当該国とRTA を締結した相手国が第三国と締結したRTA との比較、(3)RTA 以外の関連条約 との比較等を組み合わせた、複合的な比較分析を行うことが有意義である。第3 に、RTA は日常的 に運営し、発効後の変化に対応することによって規律の実効性を維持しつづけることが重要である ため、その「対外的側面」のみならず「対内的側面」への注目も必要である。 さらに、第III 章において、RTA の関連規定の比較分析を行う。結果として、以下のような知見 が得られた。第1 に、他条約との関係に関して、日本の締結した経済連携協定(EPA)は、その過 半数がWTO 協定優先条項を置く等、WTO 協定の優越性を認める姿勢が顕著に表れている点が特...