Nurse's Diagnostic Process of the Patient with Acute Confusional State.

本研究の目的は、急性錯乱状態患者に遭遇した看護婦が注目した情報は何で、その情報をどのように解釈, 確認し、何をクライテリアとして診断を決定するのか、また、それらの内容は看護婦の経験年数によてどのような類似・相違があるのかを明らかにすることであった。 研究の概念枠組みのためにJudge & Zuidemaの『診断的論理(diagnostic logic)』を基盤として、急性錯乱状態患者に対する看護婦の診断に至る過程の概念モデルを作成した。 研究の対象は、過去に内因的な精神障害や痴呆, アルツハイマー病を指摘されたことがなく、脳の器質的障害を有していない患者で、過去1週間以内に、記録上にあらわされた20歳以上の急性錯乱状態患者に発症時関わった正看護婦(士)20名とした。急性錯乱状態患者とは、①手術・入院後、数時間から数日で発現し、その後数日で回復したことが確認される、②見当識障害などの認知面の障害が2項目以上認められる、③昼夜逆転などの生活習慣の変化や興奮などの情動の変化が1項目以上認められる、の3つの条件を満たしているものとした。 研究方法は、看護婦が急性錯乱状態患者に対する診断を行うのに、情報をどのように活用するかを明らかにするために、研究者が作成した6項目の半構成的質問紙を用いた面接と医療記録からデータ収集を行った。得られた全ての資料を分析の対象とし、看護婦の診断に至る過程における要因の内容と情報の活用方法、及び経験年数の違いによる類似性, 相違性を分析した。 研究の結果、急性錯乱状態に遭遇した看護婦が注目した情報の内容は『認知面』『態度・行動面』『感情面』『身体面』の4つのカテゴリーと16のサブカテゴリーに分類できた。急性錯乱状態患者に特徴的な内容は「注意力の低下」「見当識障害」「知覚の異常」「妄想」「会話の乱れ」「執拗な行為や要求の繰り返し」「興奮」「多動」「危険行為」であった。また「その人らしさの欠如」「表情の変化」「不安定な情動」は急性錯乱状態の前兆として、「身体的な徴候・症状」「身体への侵襲」「個人的特性」は主因・誘因・素因を解釈する上で重要な情報と考えられた。看護の経験年数も現在の職場の経験年数も長いほど、注目した情報の側面の数やサブカテゴリーの数は多い傾向にあった。 看護婦は1～4個の仮の診断を設定し、その内容は『不穏状態』『ICU症候群』『痴呆』『その他』で、そのうち急性錯乱状態と交換不可能な内容は「痴呆」「不安状態」などであった。解釈に影響を及ぼす要因の内容は『過去の学習知識』『患者の情報』『過去のアセスメント』『他者の観察・解釈内容』に分類できた。看護婦が仮の診断を確認する時に収集した情報の内容は、注目した情報の内容と変わらず、収集される情報の数は限定され注目した情報の数よりも少なかった。仮の診断を確認する時に活用した情報源の内容は『人的資源』『記録類』『臨床検査情報』『文献』で、『記録, 検査, 文献』より「患者・家族」以外の『人的資源』を活用した看護婦の方が多かった。 診断に至る過程の情報の活用方法は、単一の仮の診断を設定したグループと、複数個設定したグループの2つにわけられた。単一設定グループの、仮の診断を設定する時の情報の活用のタイプには『単一情報→単一の仮の診断』と『複数情報→単一の仮の診断』があり、仮の診断を確認し診断を決定する時の情報の活用のタイプには『単一の仮の診断に対して, 情報を再収集して診断のクライテリアを確認』『医療スタッフに自分の観察・解釈内容を報告し, 妥当であるか確認』『医療スタッフに患者の診断名を聞き、自分の仮の診断と合致するか確認』があった。 看護婦の数が最も多かったタイプは『複数情報→単一の仮の診断』+『情報を再収集して診断のクライテリアを確認』であった。医療スタッフに相談した看護婦は、現在の職場の経験年数が短かった。また、『複数情報→複数の仮の診断』+『情報を収集しながら診断のクライテリアを確認』のタイプの看護婦は、看護の経験年数、活用した情報の側面と数、解釈する時に活用した自己の内的資源の数、確認する時に活用した情報源の数の全てにおいて、単一設定の看護婦よりも多かった。 看護婦は診断をひとつ決定し、その内容は『不穏状態』『ICU症候群』『その他』で、そのうち「不安状態」を診断した看護婦は、不安の原因となる身体変化や不安によって現れた身体症状、及び感情面に関する情報を多く活用していた点で他と異なっていた。急性錯乱状態と交換可能な診断を設定した看護婦のみがあげた診断のクライテリアは、「見当識障害」「知覚の異常」「妄想」「興奮」「危険行為」で、比較的多くの看護婦があげた内容は「注意力の低下」「会話の乱れ」「執拗な行為や要求の繰り返し」「多動」「身体への侵襲」であった。急性錯乱状態患者に対する診断を適切に行うには、診断のクライテリアとなる情報をいち早く収集し、活用していく事が重要と考えられた。聖路加看護大学大学院看護学研究科修士論