本稿では,米国企業を対象に取締役会における委員会の経済的機能に関する実証研究をサーベイした。先行研究では,取締役会内部に委員会を設置する実務が普及している米国の制度的環境を利用して,①委員会の数,②取締役会から委員会への権限移譲,および③報酬委員会と監査委員会の兼任状況に関する経済的要因とその影響が明らかにされている。これらの研究では,委員会を設けることで取締役会全体の意思決定に期待される正の効果と負の効果を検討し,興味深い調査結果が蓄積されている。調査結果を要約すれば以下のようになる。第1に,委員会の設置は,取締役会全体のコーディネーション問題等を緩和し,企業業績を高める可能性がある。ただし,この効果は取締役会全体の人数が少ないなど,取締役会におけるコーディネーション問題等が深刻でない場合にはみられない。第2に,委員会への権限移譲,とりわけ社内取締役の権限が社外取締役のみで構成される委員会に移譲される場合,取締役会全体の情報共有や意思決定が損なわれる可能性がある。第3に,監査委員会のメンバーが報酬委員会を兼任するとき,報酬委員会における決定が監査委員会における追加的なモニタリングコストに与える影響を意識し,経営者報酬の設計に影響を与える可能性がある。これらの調査結果は,米国企業を対象とした実証研究から得られたものであり,日本企業にも同様の議論が可能かどうかは慎重な検討が必要である。近年,日本の上場企業は,会社法やコーポレートガバナンス・コードの改正を受けて委員会を設置する企業が増加傾向にあるが,このような委員会の設置が取締役会全体の情報共有や意思決定に影響するかは今後の研究課題である。本研究は,「JSPS科研費19K02004」と「2019年度関西大学若手研究者育成経費」(...