地球環境問題で最も重要なテーマの一つに, 森林保全がある。従来は, ハーディンが「共有地の悲劇」の中で主張したように, 森林の所有形態が共有地(コモンズ) である場合に, 資源収奪的な経営となり, 森林や環境が破壊されてしまう, と考えられた。そのため, 1980 年代以降, 世界各国で共有地の分割私有化が進んだ。しかし既にハーディンは, 所有形態が私有でも, 資源収奪的な経営となって森林破壊が進むケースを想定していた。ハーディンが真に主張したかったのは, 公有化ないしは, 強力な政府による私的利益の制限による, 環境保全であった。だが現在の途上国では, 熱帯林を国有化している国も少なくないが, 森林破壊が進行している。よって, この複雑な難問を解決するための一助とするために, 収奪的森林経営と持続的森林経営について, 近世における歴史的事例を複数取り上げ, その類型を5 つに分類して検討した。その結果, 所有形態が私有か共有かは重要ではなく, 森林に対する排他的利用制限と利用期間の永続性があるかないかによって, 森林経営が収奪的か持続的かの相違が生じることが明らかとなった