application/pdf本論文は高知県の山間部に伝わった本川神楽を取り上げて、「宗教者の身体と社会」について考える端緒としたい。具体的には、本川神楽の担い手である太夫(たゆう)が伝承してきた知識について検討する。また近隣の類似の神楽において用いられる祭文についても比較分析する。それらを通して民俗芸能における宗教性を再検討することへとつなげたい。 本川神楽は、芸能だけではなく、これを担う太夫はホウやシキを知っているとされ、何らかの呪術を駆使することが可能だと信じられてきた。また太夫は暦や行事に関する高度な知識を持ち、死者の祭祀にも関わっていた。祭りにおける芸能の演じ手にとどまらない民俗信仰形成の核となる存在なのである。 またこうした太夫たちが伝えていた祭文類の中には中世に遡るものがあり、そうでないものも、中世的な発想によって構成されている。「五龍王祭文」と総称される宇宙を五人の王子が時間で区切って支配する物語は西日本各地に残され、四国山間部の神楽にも継承されている。これは、この神楽が広い地域において、高度な宗教的な知識を下敷きに形成されたことを示唆している。ただし、現在では実際の祭儀においてはその位相は不安定である。 今後もこうした検討を続けることで、本川神楽の特質を解明することが可能になろう。またこの芸能の系譜についても祭文と現在の芸態との差異を意識しての検討が求められる。さらに四国各地、日本列島各地の「神楽」と呼ばれる芸能とそれに携わる人びとの伝承を比較し分析することが必要である。The general subject of this study is the physical body of religious believers and society withi...