帷子は今日よく知られた服飾のひとつであろう。しかしながら、その基礎的な研究は充分にはなされていない。本稿では、そうした状況を打開すべく、基礎的研究の一環として、室町時代から江戸時代初期にかけての材質の変遷を解明する。可能な限り文献を渉猟した結果、以下のような動向が辿られた。一五世紀に於ける帷子の材質は、布類、なかでも麻布がごく普通であった。絹物の例も散見されるが、それはあくまで特殊な用例であり、普遍化したものではない。一六世紀に入ると、麻布の種類も他の植物繊維の例も増え、布類の種類が豊富になっている。それと同時に、生絹という絹物も見られるようになった。一六世紀の末期ともなると、生絹は広範に普及を見せ、布類と等しいまでの重要な位置を占めている。一七世紀初期に於いては、布類については一六世紀末期の状況と大差は認められない。注目されるのは、綾などの絹物や、材質は不明であるが、唐嶋といった生地である。これらは慶長期の半ば頃から登場し始め、帷子の内でも単物として細分されて記録に出てくる。単物は裏を付けずにひとえで仕立てたものである。その材質には、絹物や木綿が見られる。単物は一六世紀後期に明瞭に確立をみせているが、当初は帷子とは分けて記載されており、慶長期中頃に至って帷子の内に組み入れて記載され始める。すなわち、単物というジャンルが、帷子というジャンルに融合をみせていく経過を示すのである。この動向は、絹物である生絹が単物と帷子との間を取り持つ契機として大きな役割を果たし、実現したと推察できる。このように、はじめ布製であった帷子は、やがて絹物でも仕立てられるようになっていった。それは、帷子の独自性を揺り動かす出来事であった。小袖と材質の上でさしたる相違がなくなり、引いては、独立した存在であ...