我が国の財政状況はOECD諸国中最悪であるが、その原因として、①規律が弱い予算統制と②意思決定システムの断片化(fragmentation)が挙げられる。本論文は、このうち①に焦点を当て、特に財政ルールを議論する。具体的には、財政ルールを赤字ルールと支出ルールに分類し、財政法や実際の運用等におけるこの2つのルールの問題を計量的に分析することを通じて、予算統制の問題を明らかにする。我が国の財政ルールの基本的な問題は、中期的な視野で、景気の変動に対応しつつ、安定的な財政運営を行うためのメカニズムや枠組みに欠けていることである。具体的には、赤字ルールが景気に対して非弾力であり、支出ルールが財政規律を低下させていることである。また、財政ルールを守ることについての政治的コミットメントが弱く、コミットメントを担保しルールを遵守させるための透明性な仕組みが乏しい。支出シーリングは、トップ・ダウン型式の予算編成手法の1つであり、諸外国でも活用されているが、我が国のシーリングは、一般会計の一般歳出の当初予算のみを対象とすることから、実際には、当初予算偏重、一般会計偏重、単年度偏重をもたらし、予算編成を歪めている。例えば、一般会計歳出総額の伸び率は、全年度当初予算と比べて「拡張的」であるが、前年度決算と比べると「緊縮的」である(当初予算比で示される伸び率は、平均で3.8%ポイント過大に評価)。一般会計歳入総額の予測(予算)は、好景気・不景気にかかわらず、ほぼ6%ポイント(MPE、MAPE)の過小評価となっており、最も大きな誤差を示している。当初予算に計上すべき支出を補正予算に計上し、一般会計の負担を特別会計に移転させることなどによって、一般会計の財政赤字は、平均的に10~20%程度、過小に見積も...