イスラーム圏の国々の経済成長が続いている。世界人口に占めるイスラーム教徒の割合も年々増加しており,イスラーム圏の大企業も既に多く存在することから,これらのイスラーム圏の大企業がCSRの概念をどのように捉えているのかを知ることは有益といえる。トルコやインドネシアの企業を新興経済国の企業という側面で捉え,CSRの浸透度を考察する研究はこれまでも見られるが,イスラーム的経営を志向するイスラーム圏の大企業がどのように自社の経営にCSRを取り込んでいるのかという側面からの考察は限られている。本稿はこれらの問題意識を元に,GDPで世界のトップ20入りするイスラーム教国家であるトルコの上場企業のCSR活動の分析を通じて,その活動実態と思考を理解することを目的としている。具体的な分析手法は,イスタンブール証券取引所メインボード上場の食品・飲料会社28社の開示情報の定性分析を行うと共に,トルコ企業のCSR活動への取組モチベーションの裏側にある潜在的な価値観を探るため,3社の企業のCSR活動責任者への深層面接法(デプスインタビュー)方式を採用した。開示情報の分析からは,質と内容に個社毎のバラツキが多くみられ,数社のCSR活動は先進諸国のそれと遜色無いものであることが確認できたが,全般には開示の質と内容は低いものであった。しかしながら,個別のデプスインタビューを通じて,多くの経営者がCSRのコンセプトを十分に理解しており,イスラーム教の価値観との親和性を強く認めていることが示された。とりわけ国連のSDGsの考え方に対し,分かりやすさ,設定テーマ,網羅性,時間軸への共感から強い賛同が得られており,トルコ企業全体へのCSR活動の定着と発展には,政府の積極的な関与,第三者機関による公共インフラの整備,教...