放射線疫学では線量あたりの疾患発症リスク(リスク係数)に関心があることが多く、しばしば回帰モデルによる解析が行われる。室内ラドン曝露による肺がんリスクの上昇を示唆したDarbyらの研究では、疾病の発症の有無を結果変数、線量を説明変数とした線形オッズモデルによる解析が行われている。通常の回帰モデルでは説明変数には誤差がないことが仮定されるが、放射線疫学では線量測定にしばしば誤差を伴い、その結果リスク係数は0に近づく、つまり過小評価のバイアスが生じることが知られている。このような誤差は加法測定誤差と乗法測定誤差の2つに大きく分けられ、前者は真の線量に誤差が加わって測定値が得られ、後者は真の線量に誤差が掛けられて測定値が得られる。このような測定誤差に対して統計学の枠組みで様々な対処方法が提案されおり、広く適用可能なおかつ比較的容易に実行可能な方法として、Regression Calibration法(RC法)とSimulation Extrapolation法(SIMEX法)が知られているcite{Carroll}。RC法はDarbyらの研究でも用いられている一方で、SIMEX法は用いられていない。SIMEX法とはシミュレーションに基づいた補正方法であり、測定誤差が生じる過程をシミュレート可能な状況に広く適用可能である。またこの方法を適用する過程で得られるプロットは、測定誤差によりバイアスが生じる様子を視覚的に示すことが可能である。しかし、SIMEXは加法測定誤差に対して広く適用されてはいるが、乗法測定誤差への適用はあまり行われていない。また放射線疫学では測定誤差は乗法測定誤差であることが多い。よって本研究では、Fearnらの研究と近い状況設定にて乗法測定誤差のシミュレーション研究...