ウランは地殻成分の一つであり、土壌や海水等、環境中に広く分布している。そのため食物中にも微量含まれており、我々は食事を介してウランを摂取している。その1日摂取量はおよそ1.1 μg/dayであり1)、水銀やカドミウムなどの重金属の摂取量より1/4 – 1/20程度低く2, 3)、通常は健康上問題とならない。しかしながら高濃度のウランを含む地下水を飲用した場合には、腎障害を引き起こすことが報告されている。一方、ウランは原子力発電の燃料として利用されている。原発事故を経験し、飛散した多くの放射性核種と同様に、その内部被ばく影響は今後長期化する廃炉作業に鑑み社会的に高い関心が向けられている。ウランはα線核種としての放射線毒性と重金属としての化学毒性の両面を合わせ持つと考えられている。その生体影響を理解する上で組織内挙動や細胞局在を把握することはきわめて重要である。すなわち、α線核種であるウランの精度の高い被ばく線量評価には、およそ隣接する細胞間距離に相当する30 µm付近でα線のエネルギー付与が最大であることから、ウランの細胞局在の情報が不可欠である。一方、放射線毒性よりも優勢と考えられている化学毒性の発現機序を明らかにするためには、標的細胞におけるウラン蓄積を正確に把握し、組織影響との量-反応関係を示さなくてはならない。しかしながら、これまでウランの適切な局所分析法がないために、標的細胞に関する情報は乏しく、そのウラン動態はよく理解されていなかった。シンクロトロン放射光による高エネルギーマイクロビームを用いた蛍光X線分析(µSR-XRF)では、生体多量元素に妨害を受けないウランのL線(13.6~20.2 keV)の検出が可能であり、組織中微細構造に対応したウランの検出を行うことが...