自然生態系を対象とした観光資源の持続可能性を把握するためには、生態系内の物質循環を適切に「見える化」することが有効である。本研究では特に生態系内の有機態炭素動態に着目し、これまで一般に用いられてきた土壌有機物動態モデルの一つである「ロザムステッド・カーボンモデル(RothCモデル)」と純一次生産量(NPP)を推定する「筑後モデル」をユーラシア大陸中央部の39サイトに適用することで、(1)RothC モデルと筑後モデルの比較、(2)RothCモデルで推定した植物残渣画分と実測値の比較、(3)RothC モデルで推定した易分解性有機物プールと、実測によって得られる易分解性有機物プールとの比較を行った。その結果、(1)深くまで土壌有機物が蓄積している土壌では、筑後モデルによって推定したNPP とRothC モデルによって推定した炭素投入量との差が大きくなること、(2)RothCモデルにおいて想定されている難分解性植物残渣(RPM)は、ほぼ軽比重画分炭素(LFC)として実測できること、(3)RothCモデルにおいて推定される易分解性炭素量は、実測される易分解性炭素量と高い相関関係を示すものの、モデルにおいて想定されているよりも実測される分解速度の方が速いことなどが明らかとなった。本研究により、RothCモデルをはじめとする「概念的」プールを用いた土壌有機物動態モデルに、「測定可能な」有機物プールによる現実的な修正を加えることで、より正確に生態系内の炭素循環過程を「見える化」できることが示唆された。departmental bulletin pape