僧帽弁は、左心房と左心室の間に存在する一方向弁で、二枚の大形弁尖(前尖ならびに後尖)および、それらの間に存在する二枚目小形弁尖(交連尖)から構成され、腱索と呼ばれる強固な策状物により乳頭筋に固定されている。僧帽弁は、弁尖、腱索ならびに乳頭筋と共に僧帽弁装置を形成し、左心室から左心房への血液の逆流を防止する機能を備えている。 弁尖には、辺縁部分にある粗雑で不透明な粗帯と他の透明な明帯とが認められるが、逆流防止時に接合する部位は、粗帯である。 腱索は弁尖への挿入の仕方や部位によって分類され、粗帯に挿入する場合は、粗帯部腱索、交連部に挿入する場合は交連部腱索、弁基部の基底帯に挿入する場合は、基底部腱索、また後尖の裂溝に挿入する場合は、裂溝部腱索と称される。また、前尖の接合面を保持する腱索の中で、最も太く、前尖のA1とA2、A2とA3の境界部を跨ぐ腱索はstrut chordaeと称される。 僧帽弁閉鎖不全症(Mitral Regurgitation;MR)は、粘液腫様変性により僧帽弁弁尖の肥厚ならびに腱索の伸展・断裂が生じ、弁の接合に不一致が生じる結果、左心室から左心房へと血液が逆流する後天性心疾患とされている。 MRは初期には、心臓の代償機能により明らかな変化は生じないが、進行性の疾患であるために、次第に代償機能が破綻し、最終的には左心不全に陥り、死に至る。 治療法としては、現在内科的治療が主体であるが、様々な新薬の開発にもかかわらず、予後や生活の質(Quality Of Life;QOL)の改善には限界がみられている。一方、人医領域では一般的な治療法として人工心肺装置を用いた心停止下での外科的治療法が実施されているが、最近では獣医学領域においても報告されるようになっている。 M...