歴史教育はグローパルな課題である。歴史教育は歴史認識を育み,集合的記憶を共有する国民を育成するツールになり得る。歴史認識は人々が現在の社会を歴史的文脈の中で理解するのに役立ち,将来の決断にも影響を及ぼす。共通の歴史認識の構築は戦後のヨーロッパに平和的貢献をもたらしたが,東アジアでは,共通の歴史認識が欠落しているゆえに,戦後の日本の近代史教育のあり方が近隣諸国との衝突を引き起こしているのである。 1947年の社会科の設立以来,日本の社会科は冷戦という新たな国際社会の枠組みの中で発展した。敗戦直後は天皇を中心とする帝国主義的な歴史観とイデオロギーの抑圧に力を尽くしてきた連合国軍最高司令官総司令部も,冷戦による緊張感の高まりによって政策に方向転換を迫られることになる。そのような国際情勢は,戦後に再建された日本の政治体制,教育行政に,ある一定の保守的な要素を残すこととなった。 一方で,教育学者,教師などをはじめとする人々は,先の戦争の反省の上に構築された新しい科目,“社会科”に多大なる期待をよせ,その発展に寄与してきた。本稿は,その中でも歴史教育者協議会(歴教協)を保守勢力に対峠する存在として挙げ,地域に根ざす社会科,楽しく・わかる社会科,子どもが動く社会科,被害・加害・抵抗をキーとする戦争学習などの様々な授業論の発展に注目しながら,戦後の歴史教育を概観する。さらに,2010年から2014年の5年間に『歴史地理教育』に掲載された,小学校・中学校における戦争を扱う授業実践をカテゴリー別に分類し,分析する。 分析の要点は,次のようなものである。戦争を扱う授業実践は,小学校及び、中学校においても,戦時下の日本人の暮らしをテーマとするものが多い。さらに小学校では,子どもたちが住む地域の...