本研究はキス資源の生態的特性を解明するために,主として瀬戸内海におけるキス底流網の漁獲物を用い,キスの生態と資源ならびにキス底流網の漁具特性について解析を行ない,つぎの諸点を明らかにした. 1) キス底流網は5~10月に瀬戸内海の中部水域において盛んに操業されている.キスの月別漁獲量は漁期当初の5月に最も多く,その1日1隻当り漁獲量は16.2kgであるが,漁期の進行に従って次第に減少し,10月には11.1kgとなる.漁獲物中に占めるキスの重量比は漁場によって若干異なるが,六島周辺水域では,9月に最高の70%を,7月には最低の53%を示し,漁期中の平均は約60%である. 2) 瀬戸内海に分布するキスの同定に当って,Sillago sihama(FORSKÅL)とSillago japonica TEMMINK & SCHLEGELの区別について分類上の疑問が生じた.すなわち瀬戸内海のキスについて,両種の判別の根拠にされている両眼間および頬の鱗を調べたところ,櫛鱗と円鱗が混在して両者の比率は10:1であり,櫛鱗の占める比率が大きいので,キスの分類について再検討する必要があると考える.しかしここでは従来通りSillago sihamaとし,採集標本の形態について種々の計測を行なった(Table2,3).その結果,体長(L)と全長(T)は,L=0.86T+0.07,体長と尾又長(F)はL=0.91F-1.71,そして体長と体重(W)との関係はW=9.69×10-3×L3.079である. 3) 年齢形質として鱗を用い,その測定結果から瀬戸内海のキスの成長を明らかにした.キスの体長とその鱗径とは直線関係にあり,標準標示径をWALFORDの定差図によって吟味した結果,標示は等しい周期...