本論文は以下の5章で構成される.第1章 緒言 本章では,本研究の背景および目的について述べる.マグネシウムは構造用金属材料中最も低い密度を有することなどから,軽量化が求められる輸送機器分野や電子・携帯機器分野において注目されている.マグネシウム合金の一種であるMg-9Al-1Znマグネシウム合金(以下AZ91D合金)は,アルミニウムの添加で強度や耐食性の向上,亜鉛の添加で鋳造性の向上を達成した代表的な鋳造用マグネシウム合金である.しかし,アルミニウム含有量が多くなるとβ相(Mg_Al_金属間化合物)が主に結晶粒界に晶出し,母相のマグネシウムとの界面で応力集中が発生することで割れが発生し易いため,塑性加工性に乏しい傾向がある.そのため,延性向上を目的とした研究が盛んに行われている.これまでに,押出しやECAP(Equal channel angular pressing)といった強ひずみ加工による延性向上の研究報告がなされているが,これらはβ相の制御ではなく結晶粒微細化に着目した研究であった.また,これらの加工法は大型部材に対して適していないことが問題であった.そこで,本研究室では大型化可能かつ高温加工によりβ相を制御する加工熱処理の一つである単軸高温プレスに着目した.過去にAZ91D合金鋳造板材に対して高温プレスを施したところ,室温における延性の大幅な向上に成功した.その主な原因は,動的再結晶による結晶粒微細化,鋳造欠陥の減少および粗大な共晶β相の固溶であると報告されている.しかしながら,過去の研究では延性向上に最適な微細組織を得るための高温プレス条件は調査されていなかった.本研究では様々な温度および速度のプレス条件でAZ91D合金鋳造板材に対して高温プレスを施し,延性向上に...