雑誌掲載版通常のヘッドアップティルト試験は陰性で、アルコール摂取下のヘッドアップティルト試験時にのみ高度房室ブロックを呈し失神を生じた症例を経験したので報告する。症例は54歳、男性。2002年から3回飲酒後に失神発作を生じ、3度目の発作では下顎骨骨折をきたしたため近医に入院。入院後のホルター心電図上、夜間に最長4.4秒のpauseを伴う3:1伝導の発作性房室ブロックを認めたため当科に紹介された。電気生理学的検査上、特記すべき異常はなく通常のヘッドアップティルト試験は陰性であったが、アルコール摂取下ヘッドアップティルト試験にて徐脈傾向に続く一過性III度房室ブロック(心拍数40bpm)を呈し失神した。アルコール誘発性失神のなかで、とくに起立性低血圧、神経調節性失神をきたす例においては、アルコール摂取による下肢の血管収縮不全が主要な機序である可能性が示唆されている。一方、一般に神経調節性失神における心抑制形式は、洞結節に対する作用(洞房ブロックや洞停止)が主たる形式で、房室伝導に抑制効果をおよぼすことは稀とされている。本症例のような、心拍数減少型のAHブロックによると推察される高度房室ブロックは、副交感神経活性を高める誘発法がほとんど存在しないため電気生理学的検査室での誘発は一般に難しいとされる。しかしアルコール+ヘッドアップティルト試験は失神の機序の一つである迷走神経依存型房室伝導障害を誘発し得る一検査手技として有用である可能性が示唆され、ここに報告する