19世紀イギリス産業社会における制度的硬直性-技術教育を中心に-

Ⅰ 問題の所在 技術の進歩には、経験的試行錯誤に基づく場合（経験的技術）と原理の究明から演繹される科学的思考に基づく場合（科学的技術）との2種類が考えられ、前者による進歩の度合は遅く、予測し得ないものである一方、後者によるそれは加速度的かつ予測可能なものである。まさに工業化は、経験的技術から科学的技術への移行であり、その推進には高度な専門技術者のみならず、高度な能力・慣習を身につけた労働者も必要となってくる。すなわち工業化には本来、教育とりわけ技術教育が不可欠なのであり、これは換言すれば、各国における工業化社会の形成は技術教育によって支えられているということである1）。例えば後発資本主義国家であったわが国においては、開国後において急速な工業化を推進するべく、旧体制を変革して西欧諸国の優越性を認め、政治・法律・軍事・経済・交通・教育等における近代的な制度を一刻も早く摂取する必要にさらされた