19世紀末ロンドン製造業者による技術教育への覚醒-「技術教育に関する王立委員会」および全国技術教育振興協会の活動を中心に-

Ⅰ 問題の所在 イギリス近現代史の学界で論じられてきた「経済衰退」は、イギリス経済史の再構築を喚起し、内外の学界状況に著しい変化をもたらすことになった。綿工業を中心とした機械制工業の導入が、小生産者の賃労働者化ひいては資本家と労働者の階級分化を完成させ、その結果として産業資本主義を確立させた、という意味でのこれまでの産業革命像については、再検討の必要性が生じている。 イギリスの「経済衰退」については、これまで様々な角度から説明がなされてきた。そして、それらの説明で一貫して唱えられているのはイギリスの社会的・経済的特殊性であった。例えばインガム（G．Ingham）は、「イギリス史は、これまでの一般理論に当てはまらない点をいくつか提示している」と述べ、これまでの理論に代わる新たなイギリス史の視座を提供した