真核細胞ゲノムの構造及び機能解析 : 酵母第VI番染色体をモデルとして

主指導教官 : 柴田武彦出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)はゲノムサイズが小さく､また､遺伝学的､生化学的な解析が古くより行われており､また核膜を有する真核生物であり､多数の遺伝子の機能が高等動物と共通であることから､モデル生物として分子生物学･基礎医学等の分野で広く用いられている｡また､近い将来全ゲノムが解析された最初の真核生物になるものと予想されている｡ この出芽酵母の第VI染色体の仝塩基配列の決定が筆者の所属する研究グループで行われたが､このシークエンスプロジェクトにおいて筆者はシークエンスギャップのクローニング､染色体構造及び複製開始領域の解析､ORFの解析等を行った｡特に､シークエンスのギャップのクローニングとその解析により､第VI染色体の塩基配列データと物理地図が十分な整合性を持つようになり､染色体構造及び複製開始領域の解析により､他の染色体における解析では､明らかにされていない知見を見いだすことができた(Hagiwara et al 1995, Eki et al, 1996)。具体的には以下のことが明らかになった｡ (1)酵母第VI染色体全長のシークエンスを行った結果､270148bpの配列を決定した｡GC含量の解析により第VI染色体は不均一なGC含量の分布を示し､染色体中心付近では特にGC含量は低い値を示し､興味深いことにこの領域では染色体の片鎖が選択的にコーディング領域として利用されていた｡ (2)第VI染色体上では酵母においては複製開始領域と予想される自律複製能を有する機能領域､ARS(Autonoumously replicating sequence)は8カ所存在することが既に報告されている｡ARS領域の活性に必須であるコア配列ACS(ARS consensus sequence)は､第VI染色体上に300以上存在し､何らかの選択機構の存在が予想された｡GC含量､ORFの分布のみの解析からはこのような選択メカニズムを示唆する知見は得られなかったが､実際に自律複製能を有する領域では､ACSの3'側にl箇所以上のACSを含む傾向が見られた｡ (3)ORfの検索を行った結果127のORFを第Ⅵ 染色体上に同定し､このうち92のORFは新たに見つかったORFであった｡機能､構造予測を行った結果､物質輸送､転写調節等に関連する機能モチーフが見いだされた｡更に上流解析の結果ヒートショック､接合因子等による転写調節領域が兄いだされ､これらの配列を持つORFの幾つかは実際に転写の誘導を示した｡ (4)GenMarkプログラムによりコーディング領域の検索を行ったところ､当初ORFの同定ではサイズが小さいため無視されたか､あるいは､開始コドンがGTGであるために検出されなかったORFの中から､新たに19箇所のコーディング配列の存在が示唆された｡GenMarkによる解析は､特にサイズの小さな遺伝子を同定するのに有用であることが示された｡これらの解析データは遺伝子の機能解析研究の基盤として今後､広く利用されてゆくものと考えられる