遺跡から出土する木製品の樹種識別、古建築材や古美術材の樹種識別は時代的、地域的な使用樹種の変化を明らかにし、学術上極めて重要な位置を占めるようになっている。近年樹種識別に携わる者が増えたとは言え、必ずしもその全てが十分な識別の専門家であるとは考えられない面もあり、特定の専門家に識別の依頼が集中し、時間的な制約によって賄いきれないのが実状である。したがって、専門外の者にとっては、木材の樹種識別は容易ではない。そこで、我々は識別の専門家以外の者にも使い易く識別精度の高いシステムの開発を試みた。それにはコンピュータを用いることにより検索時間を速くするとともに、経験や勘に頼る部分を極力少なくするために専門用語の解説や顕微鏡写真や模式図などを多用するなど初学者への支援機能をシステムに盛り込んだ。さらに、エキスパートシステムの考えを取り入れる事によりユーザーインターフェースを考慮したシステムの開発を目標とした。出土木材の樹種識別は、あくまでも現生の木材を識別する知識に沿って行われるため、樹種名の明らかな現生木の顕微鏡標本を作製し、マクロ・ミクロの両面から識別の根拠となる組織形態的な特徴を抽出した。こうした特徴項目の中には単に顕微鏡で観察したら分かる特徴と、計測する必要のあるものがある。そこで、画像計測の手法を用いて、遺跡出土木材など直接計測できない比重の推定や、道管の分布数、道管径などを精度よく計測する方法を確立した。以上の特徴項目のデータベースを構築すると共にそれらの特徴を現す顕微鏡写真を撮り、特徴の画像データベースを構築した。さらに、識別の対象となる日本産有用木材針葉樹、広葉樹あわせて約220種の3断面の顕微鏡画像のデータベースを構築した。これらのデータベースを用いてエキスパートシス...