金沢大学医学系資源化・商品化される女性身体の具体的な諸層を明らかにするため、タイの生殖技術について調査を行った。タイでは医療ツーリズムが国策として推進されていることから、私立病院を中心に外国人向けの医療サービスも充実している。不妊治療の一貫として、卵子提供や代理出産が行われ、これらの生殖サービスを求め、海外からの利用者も多い。アジア系女性の卵子を希望する日本からの利用者も少なくないと推測される。こうした事実を踏まえ、卵子提供や代理出産の候補者/経験者であるタイ人女性14名(24~36歳)にインタヴューを実施した。タイでは卵子提供の報酬は10万バーツ程度(約30万円)、代理出産の報酬は約30万バーツ(約90万円)程度であり、タイ女性が代理出産などに従事する主要な目的として金銭が挙げられる。家族や母親の経済的困窮を助けたいという動機が多く見られた。その他、【妊娠することが好き】【不妊患者がかわいそう】【人助けのため】【中絶の賦罪のため】などが動機として語られた。生殖産業に関わるタイ女性の多くは、貧しく低学歴であったが、大学卒で十分な収入がある中産階級の女性も含まれていた。タイ語の代理出産(〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓)には、仏教の「徳(プン)」という言葉が含まれており、人助けの善い事であるという意味が込められている。こうした仏教のイデオロギーが、タイでの生殖産業の興隆の背景にある。国際都市バンコクは観光資源も豊富で世界中から娯楽目的で人々がやってくる。タイでは、従来から、農村の貧しい女性が性産業に取り込まれ、セックス・ツーリズムの対象になってきたことはよく知られている。生殖産業による女性身体の資源化や商品化が進みつつあるタイの社会状況として、ツーリズムに対して寛容な見方、貧困...