金沢大学工学部1ミリから2センチぐらいのごくうすいスベリ粘土を間に挟んだかたちの亀裂が岩盤の中に多数存在する.かなり多くの山岳崩壊がこう言った弱面に沿って生じるスベリである.一つのスベリ事例に対して,弱面が数十個またはそれ以上存在するのが普通である.したがってすべり落ちてくる岩塊が,どの弱面に沿ってすべってくるかを予測するためには,かなり複雑な3次元幾何学を必要とする.山そのもののかたちも複雑な3次元的形状を持っているから,これを数値的とりあつかうには、それなりの容量を持ったコンピュータを必要とする.たとえば本研究の解析対象のひとつである白山甚之助谷左岸で過去に発生したスベリの解析には,スベリ岩体を含む解析領域を1億2500万個の直方体の集合に置き換えている.このように,概念自体は単純であるが,取り扱わなければならない対象の3次元的な形態が極めて複雑であるから,特殊な工夫を凝らした3次元岩・水連成安定解析用プログラムを作成した.プログラムには,岩体の自重にともなう力のつり合いだけでなく山の中での地下水の動きをできるだけ現実に近い形でシミュレーションし,地下水が岩体に作用する水圧おもつり合いに取り入れた.こうして作成した解析用プログラムにより,いくつかの山岳崩壊事例を実際に解析してみた.解析に先立って必要となるのは,弱面にはさまっているうすい粘土の強度である.本研究では現場で採取したスベリ粘土を一面せん断試験機で等体積せん断に供した.試験法法に特殊な工夫をこらし,このようなうすい粘土のせん断試験を実施すると共に,一面せん断試験そのものの力学的な意義づけをするための理論的研究も実施した.以上の結果,白山で発生している巨大な山岳崩壊の一部を,実際の現象と充分に斉合したかたちで解析す...