金沢大学ナノ生命科学研究所脳発生の過程では,複数種の神経幹細胞が層状に分布した三次元的な空間構造が形成される.しかし,組織レベルの三次元的な空間構造の形成原理を説明するためには,シグナル伝達経路・遺伝子発現等の分子レベルの解析だけでは困難である.そこで本研究では,分子レベルから組織レベルまでの多細胞動態を包括的に記述する新規の数理モデルを開発し,脳発生における細胞の時間制御から組織の空間構築への変換機構を解明する.第一に、昨年度の研究に引き続き、三次元バーテックスモデルの理論解析により、単層の上皮シートの力学的な安定性を解析し、単層の細胞シートに内在する力学的な不安定性が細胞脱離を引き起こすことを明らかにした。本研究成果を国際学術誌に発表した。第二に、三次元バーテックスモデルに対して、Delta-Notchシグナル動態を導入し、脳発生における神経上皮組織の多層化の機構について検討した。その結果、Delta-Notchシグナルによるパターニングは細胞間の接着力を下げることによって、細胞脱離を促進することを明らかにした。また、細胞脱離に伴う組織の三次元変形は、Delta-Notchシグナルのパターニングを促進することを明らかにした。本研究成果は論文として投稿準備中である。第三に、三次元空間における多細胞の力学動態をサブセルラーレベルからシミュレーションする独自の数理モデルを開発した.本モデルは,各細胞の三次元形態を詳細な多面体で近似し,多面体の頂点に関する運動方程式,および,多面体メッシュのトポロジー変化を解くことにより,多細胞の三次元的な力学動態を粗視化する.特に、長時間スケールにおける細胞の大変形を記述するため、三角形メッシュとのトポロジーを動的に変化させた。このリメッシュ操...