金沢大学環日本海域環境研究センター鉱物中に蓄積された放射線損傷は,鉱物の物性をコントロールしたり,年代測定を可能にする重要な情報である。本研究では,ラマン分光分析,ウランの自発核分裂飛跡観察(FT法),ウラン・トリウム濃度測定(LA-ICPMS分析およびFT法)を組み合わせる事により,推定放射線損傷量とラマン分光シグナルとの関係を数式化し,放射線損傷量の定量法を確立する事をめざすとともに,年代測定への応用や,物性変化への影響の吟味を行うことを目的としている。Nasdala et al.(2001)はラマンスペクトラの1000カイザー付近に現れるν3(SiO4)bandの半値幅(FWHM)がウラン・トリウム濃度とU-Pb年代から計算したα線量と直線関係にあることを示した。昨年度,化学組成の変化がラマンスペクトルのFWHMにどのように影響を与えるかを合成ジルコンを用いて調査したところ,3周期の元素はジルコンに入りやすく,またその濃度とFWHMは直線の関係を示すことが分かった。ただしその時の濃度は~5000ppm以上必要であるが,これは天然のジルコンでは滅多にないほどの高濃度である。従って天然ジルコンのラマン分析においてあまり化学組成を気にする必要はないといえる。今年度はFT法で利用される年代標準試料の化学分析,ラマン分析を行った。もっとも多くの微量元素を含むものでも3000ppmを超えることはなかったため,ラマン分析結果に化学組成の影響を考慮する必要がなかった。ラマン分析結果は試料によって差はでなかった。また人工的に誘導核分裂によってトラックを増やした試料のラマン分析も行ったが,これも差はでなかった。したがってFT密度とラマン分析には明快な関係が見られなかった。ただしこのラマン分...