本稿では、20 世紀のアメリカ人作家Ernest Hemingway の描く物語に複数登場する外見の似た二人組に焦点を当て、この作家のincest(近親姦1))を想起させる関係に対する強い関心と、その表現手法の変化について考察する。まず、外見の似た二人組が様々な作品に登場する事には執筆当時の時代、文化背景の関わりも深いことをふまえつつ、その描写には親密な異性のきょうだい関係のニュアンスが重ね合わされ、その親密さは近親姦的ニュアンスを含む事を提示する。次に、この作家による実際の異性のきょうだい関係の描写に着目し、その極めて慎重な描写からHemingway 作品に一貫して流れる近親姦的欲望に対する強い抑圧を指摘する。最後に、Hemingway がそのキャリアを通じて描き続けたNick Adams 物語群を執筆年代に注意しながら考察することで、この作家が近親姦を想起させる関係の扱い方に葛藤しながら、晩年の未完成作品草稿「最後の良き故郷」に向けて、この関係をそれまでの三人称的視点から見る姿勢からついに主人公の主観的視点から描くに至ったのではないかと主張する。This study first focuses on Hemingway\u27s interest in incestuous relationships from his depictions of similar-looking pairs. Then, by examining several intimate brothers and sisters in his works the protagonists\u27 strong suppression of incestuous desire is suggeste...