ジョルジュ・アペルギス (Georges Aperghis) は、1945年ギリシアに生まれ、現在までフランスを拠点に活動する作曲家である。アペルギスは1977-78年、後に彼の最も知名度の高い作品の一つとなる《レシタシオン》を作曲する。声のソロのために書かれ、全14曲の〈レシタシオン〉(朗誦)から成るこの作品においては、解体された言語による特殊な技法が適用され、したがって従来的な歌曲に関するような研究方策を適用することはできない。一方アペルギスは、自身の創作に対するジョン・ケージからの影響を公言し、《レシタシオン》作曲時の「唯一の野心」も、「ジョン・ケージに続くような作品を書くこと」であったと述べている。しかしながら、こうしたアペルギスのケージ受容を系譜学的に研究した文献は現在まで皆無に等しい。本研究は、ジョルジュ・アペルギスの《レシタシオン》 を、ジョン・ケージ受容の系譜の中に位置付けることを提唱するものである。ケージの著作集『サイレンス』(1961)の出版は、ケージが世界的な名声を獲得する最大の契機となった。それに続くいわゆる「ケージ・ショック」の時代においては、ケージ言説の受容は主として意味の「剥奪」に重点が置かれていた。『サイレンス』本文中に幾度となく登場する「音響そのもの」といった言説が、文字通りに音響に付随する意味の「剥奪」として受容されていた。しかし、「言語がその限界を見出すとき、その瞬間に音楽が現れる」と語るアペルギスの創作は、言語の解体による意味の「剥奪」にとどまらず、音楽的・演劇的状況への「再構成」を語っている点において、ケージ・ショックの時代における多くの音楽家たちのケージ受容と一線を画している。近年、現代の音楽の真の課題は 「音響そのもの」の意味の「...