健常な血管では血管内皮細胞は単層で内腔を覆い、選択的な細胞・物質透過を司るが、放射線治療や炎症などの急性期の病理的局面に、これらの機能が破綻することが知られている。一方、病理的局面における血管内皮細胞は、細胞環境からのfibroblast growth factor (FGF)やvascular endothelial growth factor (VEGF)など細胞増殖因子のシグナルによって、細胞遊走・増殖・分化を制御され、血管新生や血管壁の透過性変化が起こることも知られている。我々はこれまでに、高線量放射線被ばくによる障害の予防・治療に向けた細胞増殖因子の利用を目指して、安定な物性と高い生物活性を有するFGF1/FGF2キメラのFGFCを創製し、実験動物を用いたマクロな評価系により、放射線腸管障害等に対する放射線防護活性を示してきた。本研究では、ヒト臍帯静脈から単離された血管内皮細胞が受ける放射線障害を増殖の観点から評価する系を構築し、その系を用いてFGFシグナルの有無が放射線障害に与える影響を評価することにより、血管内皮細胞に対する放射線防護剤としてのFGFCの有効性を検証することを目的とした。解析対象には、個人の臍帯静脈から単離した、初代培養ヒト血管内皮細胞(HUVEC)を用いた。HUVECを、血清を含む培養液中で、FGFCシグナルの存在下・非存在下において、X線で照射した。この条件でHUVECはFGFの存在に依存して増殖するが、FGFが存在しない場合も長期間にわたって生存することを予め確認している。照射後、全てのHUVECはFGFCの存在下で培養し、細胞増殖をコロニー形成率と細胞数増加により評価した。その結果、0 Gy〜4 Gyの範囲で、HUVECのコロニー形成率と...