【目的】放射線と化学発がん物質が複合曝露された時に発生するがんにおいて、がん関連遺伝子の変異の蓄積がどのように変化するかについての情報は未だ少ない。そこで、放射線とエチルニトロソウレア(ENU)の複合曝露により胸腺リンパ腫(TL)を誘発し、そのKrasの点突然変異の頻度とスペクトラムが単独曝露とどのように異なるか、また、その変化がIkarosの点突然変異とどのように異なるか比較した。【材料と方法】B6C3F1マウスにX線0.8〜1.0Gyを1週間間隔で4週間全身照射、もしくは、ENUを飲料水として100〜200ppmを4週間投与した。処理は1)4週齢または8週齢からX線照射、2)4週齢または8週齢からENU投与、3)4週齢からX線照射した後8週齢からENU投与(X to ENU)、4)4週齢からENU投与した後8週齢からX線照射(ENU to X)、5)4週齢からX線照射とENU投与を同時曝露(X+ENU)の条件で行った。KrasならびにIkarosの変異は、cDNAのダイレクトシークエンスにより調べた。【結果】TLの発生頻度はX線単独またはENU単独での発生頻度と比較して、X to ENU群でも(X+ENU)群でも相乗的に、(ENU to X)群では亜相加的に増加した。Krasの点突然変異はX線単独でもENU単独では、4週齢から処理したものに比べ、8週齢から処理したもので減少していた。Ikarosでは週齢による点突然変異の現れる割合に変化はほとんどなかった。次に(X to ENU)群では、KrasとIkarosのそれぞれで、点突然変異が(超)相加的に増加した。しかし、(ENU to X)群では、Krasでは点突然変異の相加的な増加が見られたが、Ikarosでは見られなかった...