近年、粒子線治療やIMRTなどの高精度放射線治療の普及により、がん患者に対する放射線治療の局所制御は目覚ましい向上を見せている。しかし、がん患者の予後により密接に関わる遠隔転移に関して、その制御が十分であるとは言い難く、転移抑制を目的としたさらなる基礎研究と治療法の探求が必須である。 ATPは細胞内においてエネルギー供与体として働き、細胞外では通常低い濃度に保たれている。しかし、細胞外からのストレス刺激によりATPは細胞外へと放出され、細胞膜上に発現するATP特異的受容体(P2受容体)を活性化させることで、様々な生理作用を発現させる細胞間情報伝達物質としての機能を果たすことが知られる。近年、月本等により放射線照射によってATPが細胞外へ放出されることが報告され、放射線による様々な生物影響にATPが密接に関与していることが示唆される。また、細胞外ATPは細胞の浸潤能や遊走能に密接に関わるシグナル伝達経路にも影響を及ぼすこと、及び低線量の低LET放射線によりその発現が亢進することから、我々の先行研究で得られている低線量域での浸潤能および遊走能の亢進への関与が示唆される。 本研究では、低LET放射線の低線量照射時に見られた転移能の亢進に対するATPの関与を明らかにすると共に、高LET放射線ではこの亢進が見られないことから、高LET放射線照射がATPの放出及びその受容体などに与える影響について明らかにすることを目的とする。予備実験として、X線照射後にATP分解酵素であるApyraseを投与し、照射された細胞から放出されたATPの有無が、細胞集団全体の遊走能、浸潤能及び細胞致死に与える影響を検討中である。当日は、これまでに得られたX線での結果を示すと共に、今後の研究計画とその発展性に関...