電離放射線によるDNA傷害の特徴は、そのトラック構造に依拠した個々の損傷の局在化(クラスターDNA損傷)であり、孤立損傷に比したその修復の困難さと高い複製阻害能が、放射線の生物効果に大きく作用すると考えられる。しかし、私たちのこれまでの検討により、試験管内におけるクラスターDNA損傷の収率はLET増加と相反する結果が得られている(第49回大会WS2-1)。このことは、RBEとクラスターDNA損傷が単純な数的関係では結びつけられないことを示唆している。そこで、細胞内においても同様な傾向が認められるかどうかを、重粒子線をはじめとした異なるLETをもつ放射線で照射した培養細胞内に生じるクラスターDNA損傷の収率と生存率を比較定量することにより検討した。対数増殖期にあるChinese hamster ovary細胞AA8株に対し、ガンマ線(gamma:0.2 keV/μm)、炭素イオン線(C:13 keV/μm)、硅素イオン線(Si:55 keV/μm)、鉄イオン線(Fe:200 keV/μm)を照射した。ガンマ線照射は広島大学工学部コバルト60照射装置にて、その他重粒子線照射は放医研HIMACにて行った。照射細胞の生存率は室温照射した細胞を再播種し、コロニーフォーメーション法により求めた。照射細胞におけるクラスターDNA損傷生成収率は、低温(4℃)でDNA修復能を抑制した状態で照射し、アガロースゲルプラグに包埋、酵素処理により細胞を溶解させた後、スタティックフィールドゲル電気泳動法によりプラグからの溶出画分を算出することにより求めた。その結果、生存率はLETの増加とともに低下したが、照射細胞内におけるクラスターDNA損傷生成収率とLETとの間には逆相関の関係...