突然変異は,癌や加齢にともなう疾患などの原因と考えられているし,いくつかの環境中の化学物質は,人の体細胞や生殖細胞における突然変異の発生を増加させているとも考えられている。そのため,突然変異を誘発するような化学物質の安全性を評価することは,変異原誘発性や発癌性のフィールドでは特に重要な問題となっている。このことから遺伝子突然変異の有無を効率良く評価できる有用なモデルとしてλEG10DNAを導入したTgマウス(gpt delta)が作出され,生体に対する化学物質の安全性を評価に用いられている。しかし,マウスでは採取できるサンプル量などに限りがあるため,マウスよりも大きいラットでのTg個体の作出が切望されている。本研究はgpt deltaマウスと同じ特性を持つTgラットの作出を試みた。ラットは繁殖効率が高く,世界的に使用頻度が高いWistar系ラットを用いた。大腸菌gpt遺伝子とλファージのred/gam遺伝子から構成されるλEG10DNAをラット受精卵に導入した。これらの胚を偽妊娠誘起したレシピエント雌へ移植し,自然分娩によって産子を得た。得られた産子の尾よりDNAを抽出し,PCR,電気泳動によってλEG10DNAの導入を調べた。導入が確認できた11例の内,12週齢以上に成育した9例をWistar系ラットと交配させ,得られた125例の産子全てにおいてλEG10DNAの導入を調べたところ,56例の個体で確認できた。しかし,これらの個体は表現型が全てヘテロ型であるため,遺伝的に均一なホモ型ではない。今後は56例のヘテロ型の内in vitroパッケージングによるλEG10DNA回収効率の高い個体を選抜し,さらに戻し交配を行うことでホモ型であるTgラットを作出する。Mutations ...