仏教の説話文学に登場する「捨身飼虎」の物語は、インドでつくられ、中国の千仏洞の壁画に描かれ、やがて日本の法隆寺にある厨子の側壁に再現されることになった。しかしこの絵はその残酷なシーンのためか、わが国では、その後しだいに敬遠され忌避されるようになった。ところが中世になって、三匹の野生の虎に見守られて瞑想する僧の絵がつくられることになる。「華厳絵巻」のなかに出てくる七世紀の韓国僧・元暁にかんする一シーンがそれだ。この絵巻をつくる上で大きな役割をはたしたのが明恵(一一七三~一二三二)であるが、そのかれにも、小動物や小鳥たちに囲まれて瞑想にふけっている肖像画がある。明恵の伝記によると、かれは若いころ「捨身飼虎」図に惹かれ、そのように生きようと願うが、やがて成長し、動物たちとの共存の生活を夢見るようになったのである。「捨身飼虎」の犠牲のテーマは、日本ではどうも定着しなかったようだ
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