被陰によるイロハモミジの早期開芽 : モミジニタイケアブラムシの寄生の種内不均質性

イロハモミジの春の開葉時期には個体により大きな差がある。この差が環境条件，すなわち被害によってひきおこされることを実験的に確かめ，アブラムシの生息環境としての影響を考察した。鉢植のイロハモミジの若い苗木の中から同じ程度の芽の伸びを示すものを1988年4月に選び出し，竹林の林床と日あたりのよい苗畑にただちに移したもの，12月まで苗畑に放置したのち竹林に移したものについて1989年春の生物季節を観察した。その結果，被陰によって芽と新梢の伸長は著しく早まることが確認された。なお，1988年秋の紅葉と落葉の時間には遅れが生じ，苗畑のカエデの葉は赤く紅葉したが，竹林のカエデは黄色く変色した。芽と新梢の伸長が早まることにより，被陰下のカエデ上のモミジニタイケアブラムシは早く発育を開始し，そこで羽化した有翅成虫は伸長の遅い同種のカエデ上に飛来し，そのうえで発育した幹母と同時に産仔した。このことによりアブラムシは春に1世代多く経過することができるとともに，森林に存在するカエデを有効に利用することになる。また，被陰下のカテデは秋に黄色に変色するが，秋の有翅虫は黄色い葉上で産仔する傾向があるので，有翅虫が飛来して有性世代虫を産下するのに適している。このことは春に被陰下のカエデで幹母が早く発育を開始することを確実にする効果がある。日陰や日あたりという環境の多様性はアブラムシの生息空間を時間的に多様なものとしている。Maples which have passed a summer in the shade put forth leaves early and shed leaves late. Their autumnal color becomes yellow though that of the trees in the sun become red. Winged maple aphids emerging on shaded A. palmatum fly to late budding A. palmatum and lay larvae at the same time as the stem mothers. Thus intra-spcific variation of the phenology of maples caused by site conditions is great enough to allow addition of another generation for the maple aphid. In the autumn most winged aphids lay larvae mostly on trees of yellow leaves, i.e. on shaded trees. Thus, stem mothers overwinter on shaded trees every year