近年, 地球環境に対する意識から, 環境負荷の小さい電気鉄道に注目が集まっている. 電気鉄道は加速を行うときに伝えられる力である接線力が小さい. そのため, 雨が降っている場合や枯れ葉がレールの上に落ちている場合は線路と車輪との間の摩擦力が減少し, 車輪が一周分回転しても, 車体が一周分進まない空転と呼ばれる現象が起きる. 一旦空転が生じると, エネルギー散逸や乗り心地の悪化, 線路の破損が生じてしまう. 従って, 車輪と線路が粘着していない空転状態から再び車輪と線路が粘着している粘着状態に戻して加速させる空転再粘着制御が必要である. 空転再粘着制御には, これまで様々な手法が考案されている. 当初は「すべり速度情報」, 「接線力トルク推定情報」の二つを使わずに, 基準速度との速度偏差および加速度偏差にファジィ推論を使用した空転再粘着制御が一般的であった. 最近では, 計算機の発達により外乱オブザーバを使用して瞬時に「接線力トルク推定情報」を使用することができるようになったため, 「接線力推定情報」に基づいた空転再粘着制御が開発され, 実用化されている. また, すべり速度を測定できるものとして「すべり速度情報」および「接線力トルク推定情報」を共に活用した空転再粘着制御についても提案されている. しかし, これらの物理量は微小なため, 電気鉄道車両において測定することは困難とされており, この制御方式の実現は難しいと言える. また, それらの手法は晩秋のレール上への落葉や冬季のレールへの積雪, 着氷などによる極めて接線力係数の低い条件下における再粘着の保障についての議論はなされておらず, 加えていつ空転が収束するかやどれくらいモータトルクを絞るかについても統計だった考え方に基...