Obesity and Diabetes Mellitus : Estimate of Insulin Resistance and its Clinical Significance (Obesity : Clinical Considerations)

近年日本において糖尿病患者が著増しているが, 原因としてライフスタイルの変化, 特に高脂肪食と運動不足, 及びその結果生ずる肥満が深く関連していると推定されている. 肥満で糖尿病が増加する機序として, 内臓脂肪の蓄積により脂肪由来生理活性物質であるAdiponectinやTNF-α, IL-6等のいわゆるアディポサイトカインの分泌異常が生じ, インスリン抵抗性が惹起される. インスリン抵抗性は, 初期には代償性の高インスリン血症を呈する場合もあるが, 徐々に膵β細胞が疲弊し, 血糖110mg/dL以上でインスリン分泌が低下に転じ, ついには血糖126mg/d以上となり糖尿病発症に至る. インスリン抵抗性には, 糖尿病のみならず, 高血圧, 脂質異常症など動脈硬化症の危険因子を高率に合併するいわゆるメタボリック症候群を呈するため, 早期発見及び治療効果判定のために, インスリン抵抗性を評価する簡便な指標が求められている. Glucose clamp 法はインスリン抵抗性測定法として最も信頼性が高いとされるが, 煩雑さ等から患者及び検者双方に負担が大きく, また生理的な条件下でのインスリン感受性を表すとは必ずしも言えず, 実施は研究目的に限られている. Minimal model 解析法はBergmanらにより提唱され insulin sensitivity の指標としてSI値を測定するが, 利点として全身性のインスリン感受性を評価可能, 再現性が高い, インスリン分泌やインスリンクリアランス, Glucose effectiveness などの因子を個々に判定できる, インスリン分泌障害例や血糖上昇例でも施行可能である反面, 欠点として臓器別のインスリン感受性が評価できない, 特殊な解析ソフトが必要, そしてやはり煩雑である点が挙げられる. インスリン抵抗性を測定する簡便な方法として, 最も一般的に用いられる HOMA (Homeostasis model assessment) は, 一回の採血で測定可能である事から簡便であり頻用されているが, 空腹時採血が必要, インスリン注射使用患者では適用不可, 空腹時血糖上昇例では不正確となる等の欠点があり, 近年その改良版であるHOMA2が導入されたが, 計算式が複雑なため, 日常診療における利用は困難である. 高感度C反応性蛋白 (Hs-CRP) 等の炎症性マーカーは健常者を対象としたインスリン抵抗性指標としては有用であるが, 非特異的な病態でも増加しうるため, 合併疾患が多い糖尿病患者への適用には限界がある. リポ蛋白リパーゼ (LPL) は, インスリンによりその転写, 翻訳, 翻訳後修飾の各レベルで調節されるため, 血中濃度はインスリン作用を反映する可能性がある. 我々は高感度のLPL測定法 (ELISA) を用いたヘパリン静注前血清リポ蛋白リパーゼ量 (Preheparin serum lipoprotein lipase mass: Pr-LPL) が, 健常者から糖尿病までの広い対象においてSIと有意に相関し, 特に空腹時血糖が上昇している症例や, インスリン治療中の症例においても適用可能であり, またインスリン分泌能の影響を受けないこと, 明らかな日内変動を示さないことを示して来た. よって, Pr-LPLは血糖上昇例, インスリン分泌低下例, 経口血糖降下剤, インスリン治療例, 食後採血においてもインスリン抵抗性を反映し, HOMA, HOMA2より適応範囲の広いインスリン抵抗性指標の可能性があり, 今後更なる検討を要する