マウスにおける発生工学の発展により, 様々な人為的な操作を施した遺伝子改変マウスが多数作成されている. これらの遺伝改変マウスを省力的なかたちで長期間維持するとともに効率的に活用することを目的に, 胚や精子を凍結保存しておき, 必要に応じて個体に復元して供給する肝・配偶子バンクの整備が進められてきた. しかし, 遺伝子改変マウスの中には, 繁殖能が著しく低いものや若齢期に何らかの疾患を発症して死亡するために初期胚を得ることが難しく, 系統の継代が困難なものも多く含まれている. これらの個体から産仔を得る手段として卵巣移植法が見直され, さらに系統保存法として卵巣の凍結保存が注目されている. マウスの卵巣移植法は, ほぼ確立された技術である. 一方, 卵巣の凍結保存法は, いまだ開発途上であり, 専用の保存液は開発されておらず, 初期胚の凍結保存液やその方法を一部改変して行われているのが現状である. 2003年にMigishimaらは, マウス初期胚で使用されているDAP213保存液を用いて卵巣の凍結保存を行い, 融解後にレシピエントに移植して再現性のある成績で凍結卵巣由来の産仔を得ることに成功した. しかし, DAP213保存液への浸漬処理時間の検討は今後の課題として残されていた. なお, 凍結保存液に含まれる凍害保護剤には細胞毒性があることが知られており, 卵巣の浸漬時間が長すぎると卵細胞等に対する悪影響の危険性が増加し, 逆に短ければ凍害保護剤の組織内部までの浸透が不十分となり保護効果が得られないことになる. そのため, DAP213保存液への浸漬処理時間の検討は重要であると考えた. そこで本研究では, 卵巣のDAP213保存液への至適な浸漬処理時間を組織切片標本により解...