本研究では、2型糖尿病患者の肝臓で発現変動する遺伝子および代謝パスウェイを抽出し、それらの病態生理学的意義を遺伝子発現-臨床連関から明らかにするとともに,代謝パスウェイの協調的発現制御機構解明を試みた。1)2型糖尿病患者および健常者の肝に発現する遺伝子のSAGE解析およびDNAチップ解析:糖尿病肝および正常肝の間で差異のある遺伝子と代謝パスウェイを抽出した。2)病態形成分泌タンパク候補遺伝子の抽出:SAGEおよびDNAチップ解析で抽出した機能未解明の分泌蛋白コード遺伝子のうち、BMI、インスリン抵抗性、血糖コントロールなどの病態と発現量が関連している遺伝子を同定し、特許出願した(出願番号2005-125689)。3)代謝パスウェイの抽出:2型糖尿病の肝臓ではミトコンドリア酸化的リン酸化に関与するOXPHOS遺伝子が協調的に発現亢進していることを明らかにした。4)肝臓におけるOXPHOS遺伝子群の病態生理学的意義の解明:OXPHOS遺伝子群各遺伝子の標準化スコア平均値をOXPHOS mean centroid として算出し,2型糖尿病の病態との関連を検索した.その結果OXPHOS mean centroidは空腹時血糖値およびインスリン抵抗性指数と相関した。5)肝臓におけるOXPHOS遺伝子群の協調的発現を制御する病態・因子:肝発現遺伝子相互の関連を解析したところ、OXPHOS mean centroidは糖新生関連遺伝子群、活性酸素産生系およびredox系遺伝子群と有意に正相関した。したがって、糖尿病患者の肝臓では、糖代謝・脂質代謝の結果生じる基質の過剰供給によりOXPHOSおよび活性酸素産生系遺伝子群が発現亢進し、酸化ストレスが生じて肝臓におけるインスリン抵抗性がもたらされ...