個人情報保護のため削除部分あり一八七〇年代は近代英国史上、ひとつの大きな転換点とみなされている。社会、経済、政治、文化といった諸局面でまったく新たな展開がみられるのだ。とくに、「チャリティ」から「福祉国家」への転換がここで始まったとする見解は根強い。ではこの時期、チャリティはどのような圧力にさらされどのような帰結を見たのか。本稿では、「投票チャリティ」という一見ユニークな慈善方式とそれに対する突発的な廃絶運動の顛末に着目し、この問いへの解答を探った。その結果、「投票チャリティ」問題は、旧来のフィランスロピーの倫理と、やがて福祉国家をもたらすことになる新しい論理との相克として把握できることが明らかとなった。さらに、フィランスロピーと国家福祉が高水準で並存している現代英国の特殊事情の淵源をここに求めることも展望した。It has been often argued that the 1870s was the decisive moment when Great Britain's society, economy, and polity began to experience a series of transformations: from laissez-faire to state-intervention: from individualism to collectivism, and, above all, from irrational private charities (and cruel poor laws) to the systematic public welfare state. The present study challenges this la...