ベトナムの漢語系民族は, 一般的にホア族, サンジウ族, ガイ族の3つであるといわれている. この3つの民族は, 概説書においてもあたかも異なる特徴をもつ民族であるかのように描かれている. しかし, ベトナムでフィールドワークを進めた結果, これらの民族が本当に完全に分けられるかどうか疑問であった. こうした問題意識に基づき, 本論は, 広西南部から移住したンガイ人という客家系集団がベトナムに存在しており, その後, ホア族, ヌン族, そしておそらくサンジウ族の一員ともなっていることを指摘した. ンガイ人とは, 先行研究で「ガイ」と呼ばれてきたガイ族の前集団であるが, ホアの客家やヌンの華人にも一部存在する. したがって, 本論文は, ベトナムにおける既存の民族カテゴリーに依拠して別個に考察するのではなく, ンガイ人という「隠された」エスニック集団が存在しており, 彼らは状況に応じてその姿を変えてきたことを論じた.This paper aims to reconsider the ethnic category of the Han in Vietnam, focusing especially on the Ngai people, a Han ethnic group from South China. In 1979, the government of Vietnam officially recognized them as the Dan Toc Ngai, one of the country's 54 ethnic groups. Therefore, the Ngai people were considered to be the aboriginal ...