本稿は,フランスでP.ブルデューとD.メルリエを中心に展開された,教育と社会移動研究における関係的思考様式の通用可能性について検討する。一方でブルデューは,従来の社会移動研究の多くが依拠する実体的思考様式に代わって,要素間の関係それ自体を取り上げる関係的思考様式に移行する必要があることを主張する。それを理論的に顕現させたものが,「社会空間」という概念であるが,彼はこの理論的構築を企てる際に,従来の社会移動研究とは「縁を切る」ことを代償にしてまう。他方でメルリエは,社会移動研究に内在する問題を批判的に検討することによって,関係的思考様式を社会移動研究に通用する可能性を探ろうとする。彼は,移動表の分析を中心に社会移動研究が展開した文脈を歴史に遡って明らかにし,移動表などのカテゴリー分類を所与とみなさず,その社会学的に有意味な関係を「構築する」ことをめざす。教育と社会移動研究との関連においては,彼らが提唱する関係的思考様式は,「教育システムの相対的自律」の問題に結びつく。相対的に自律した教育システムを通して,どのような社会的関係の距離が短縮したり遠ぎかったりするのか,それによって社会的関係の意味にどのような変容が見られるのか,そうした問題に焦点を当てた分析の可能性が開かれる。Cet article a pour objet d\u27examiner une applicabilite du mode de pensee relationnel de Pierre Bourdieu et Dominique Merllie aux etudes de l\u27eduaction et mobilite sociale. D\u27une part, Bourdieu propos...